結論から: 思っているよりずっと本物です。アテナ、ハーデス、ポセイドン、エリス、そして冥界の三人の裁判官はいずれも実在するギリシャ神話の存在で、聖衣がかけられている星座にはもともとそれぞれの神話がついています。車田正美が創作したのは、その上に乗っている層です。聖闘士、小宇宙、そして時代ごとに少女として生まれ変わる女神。
1986年10月11日にテレビ朝日で放送が始まったので、2026年10月11日で放送開始40周年になります。原典と照らし合わせるには、ちょうどいい節目です。
原典にあるもの
まずアテナから。作品の描き方は、数ある翻案のなかでもかなり正確です。ギリシャのアテナは殺戮の女神ではありません。恐慌と流血と喧騒としての戦争はアレスの領分で、アテナが受け持つのはもう半分、つまり戦略、都市の防衛、理由のある戦いです。忠実な戦士たちを率い、破壊だけで決着をつけることを拒む女神。それはアニメ向けに丸めたアテナではなく、オリュンポス十二神のなかでギリシャ人が実際に信仰していたアテナそのものです。
次に星座です。ギリシャ神話はすでに夜空を登場人物の一覧表に変えていた、という点に気づいたのが車田正美の設計上の勝因でした。原典を並べるとこうなります。
ペガサスは、ペルセウスがメドゥーサの首を斬った瞬間、その血から完成した姿で飛び出します。キグナス(白鳥座)は、ゼウスがレダに近づくためにまとった姿で、その変身の証拠が空に残されたものです。アンドロメダは、母が海のニンフより美しいと誇ったせいで生贄として岩に鎖でつながれた王女です。ドラゴン(りゅう座)はラドン、黄金の林檎を守り、ヘラクレスに射られるまで眠らなかった多頭の竜です。フェニックスだけは正直に例外扱いすべきで、これはヘロドトスが伝えるエジプト由来の霊鳥であり、燃えて甦る点は原典どおりですが、他の四つと同じ意味での「星座の神話」ではありません。
冥界も持ちこたえます。ハーデスは死者の国の統治者であって悪魔ではなく、エリシオンは実際に祝福された者が行く場所です。そして三人の裁判官は創作ではありません。ミノス、アイアコス、ラダマンティスは、ギリシャの伝承が死者の裁きを任せている当の三人で、いずれも生前は王、死後にその役目を与えられた人物です。ラダマンティスとミノスにいたっては、ゼウスとエウロペの子である実の兄弟です。ポセイドンが海洋神の一族を従えて海を支配するのも、エリスが林檎ひとつでトロイア戦争に火をつける不和の女神であるのも、ティタン神族がオリュンポスに倒された前の世代であるのも、すべて原典どおり。アスガルド編のオーディンだけが、ギリシャの舞台に立つ純粋な北欧からの客演です。
創作されたもの
小宇宙、第七感と第八感、聖闘士という身分、聖衣を運ぶ箱、青銅・白銀・黄金という等級、個々の因縁や兄弟弟子の関係、修行地。これらにギリシャ側の裏づけはありません。中心の前提も同じです。アテナは時代ごとに少女として転生しませんし、守られる必要もありません。原典で守るのは彼女のほうで、ペルセウスとゴルゴンの背後にも、十年にわたるオデュッセウスの背後にも立っています。
これは欠点ではありません。作品を成立させているのは、まさにこの創作です。
構造が四十年もった理由
車田正美が借りたのは、ギリシャ神話の設定ではなく構造そのものでした。頂点に立つ女神、領分で棲み分ける対立神、名前のついた裁判官がいる冥界、そして物語を背負った八十八の星座。これをそのままゲームシステムとして使っています。神々の領分は陣営に、星座はクラスに、冥界の裁判官はボス階層になる。ルールは神話が用意し、トーナメントをアニメが用意した、という分業です。
うまくいったのは、設計の難所をギリシャ人が先に片づけていたからです。そして同じ理由で、一世代がテレビアニメからギリシャの神々を覚え、しかもだいたい正しく覚えました。
アニメと神話の対応表
| 要素 | 聖闘士星矢では | ギリシャ神話では |
|---|---|---|
| アテナ | 少女として転生し、聖闘士に守られる | 戦略と正しい戦いの不死の女神。守る側であって守られる側ではない |
| 聖闘士 | 星座の聖衣をまとう戦士 | 存在しない |
| 小宇宙 | 誰もが目覚めさせられる内なるエネルギー | 創作 |
| 黄金聖闘士 | 十二の星座に対応する十二人 | 実在する十二星座。それぞれに固有の神話がある |
| ペガサス | 主人公の青銅聖衣 | ペルセウスがメドゥーサを斬った瞬間、その血から生まれる |
| キグナス | 白鳥の氷の聖衣 | 白鳥に変身したゼウス。その姿が空に残された |
| アンドロメダ | 鎖を武器とする聖衣 | 母の高慢のせいで岩に鎖でつながれた王女 |
| ドラゴン | 盾と拳の聖衣 | ラドン。黄金の林檎の番人 |
| フェニックス | 敗れるたびに甦る聖衣 | ヘロドトスが伝える再生する霊鳥。ギリシャの星座神話ではない |
| ハーデスとエリシオン | 最終的な敵とその楽園 | 実在。死者の国の王と、祝福された者の死後の世界 |
| ミノス、アイアコス、ラダマンティス | 魂を裁く三人の冥闘士 | 実在。死者を裁く三人の裁判官 |
| ポセイドンと海将軍 | 七人の海の戦士を従える海神 | 神は実在、配下の構成は創作 |
| エリス | 劇場版第一作の敵 | 実在する不和の女神。黄金の林檎を投げた張本人 |
| アスガルド編のオーディン | ギリシャの物語に現れる北欧の力 | 実在するが、まったく別系統の神話の神 |
よくある質問
黄金聖闘士は実在の神話が元になっていますか?
星座を経由して元になっています。十二星座は実在する星の並びで、それぞれにギリシャの物語がついています。牡牛座はエウロペをさらうゼウス、双子座はカストルとポルックス、獅子座はネメアの獅子、射手座は多くの場合ケンタウロスのケイロンです。戦士の造形は創作ですが、彼らが守る十二宮は創作ではありません。
冥界の三巨頭は本当に神話に出てきますか?
出てきますし、名前もそのままです。クレタ王で迷宮の造営を命じたミノス、その兄弟ラダマンティス、アイギナ王アイアコスは、プラトンおよび後世の伝承において死者を裁く三人です。三人ともゼウスの子であり人間の王で、死後にその職を与えられました。アニメが加えた唯一の脚色は、彼らを敵に回したことです。
星矢が好きなら、最初に読むべき神話は?
ペルセウスとメドゥーサです。ペガサスの誕生、ゴルゴン、岩の上のアンドロメダ、そして守護者としてのアテナが、ひとつの物語に全部入っています。そのあとはギリシャの怪物たちと冥界の比較で、盤面の残りが埋まります。
四十年経っても、原典のほうが翻案より強く刺さります。MythologyNowはそれを音声ドラマとして届けています。ペルセウスとゴルゴン、岩に繋がれたアンドロメダ、ハーデスの館への降下。自分が着ていた聖衣の神話から始めてください。



